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泉作家百句選

小西敬次郎百句抄   きちせ あや選

(「泉」平成257月号より)

 

高野栄居

南瓜蔓引けば露けし仮の宿       『今日』

藷畠に藷掘り過ぎし彼岸かな

露霜の牛車かたむき出づるかな

機関車に在り元旦の橋渡る

焼跡に走り出て来て心太

労働祭われらは雨の機関車に

麦を踏む背に山脈のあるばかり

七夕の客車洗はれ居たりけり

闘争米に穀象を見て無言なり

声嗄れて汗も涙も隠すなし

職離れがたく真昼の蟬鳴き出す

腹満たねば寒の水飲む吾れ土工

母在れば掌の傷隠す三ヶ日

豆を撒く貧さながらの畳かな

暗がりに筆洗ひをり実朝忌

矢車のひまなく暮るる靴直し

椎楢に梅雨の独語や店しまふ

萩の家にとる行商の昼餉かな

保安帽顎紐細し虎落笛

大寒や呆けきつたる膝小僧

女来て寒の松風昂ぶるも

冬の鵙出面三分の雨の中

父の忌の父ある如し寒蜆

天皇誕生日の地下足袋をおろしけり

菊根分け噂の女通りけり

七夕や刈り残したる芝三筋

西日中松の影負ふ松黒し

朴落葉さきを急げるものばかり

 前小田原市長鈴木十郎先生死去

行く春の闇に入りゆく思ひかな

被爆地の木の芽を見たりその他見ず

母の日の晴れ極まりて褥干す

母は死へ静かなるかな虫の声

喪に入るや熟るる他なき柿いくつ

新雪の富士動ぎなし出勤す

荷を負ひて野分の人となりにけり

葛の花頼られてゐる齢かな

戸一枚開けて良夜の小酒盛

人の家の団欒にあり居待月

晩学の友の家なる飾海老         『日焼』

薄氷や縋りつきたる職ながし

耕人となりて輝くふくらはぎ

何するでなし母の日の母亡くて

梅雨に入るははの一杖どこよりぞ

暗がりに人待たせゐし送り盆

 句集「今日」上梓なる

残菊に陽の当り来しひとところ

懐に入れて師走の風少し

霜柱踏む天職とおぼえけり

元日の文机におく何もなし

鮨食ふや使ひふるびし掌

翻ることに野分のキャデー達

魂棚に置き忘れたる小銭入

十六夜の庭の大きく見えにけり

人去りし方へゆくなる寒念仏

夏負けの棒立ちにして仕事かな

一葉忌細筆の腰夜弱まり来

落葉踏む一人のときはゆつくりと

冬天の杉は松よりのびのびと

炊ぐものなくて年逝くばかりかな

ちちの忌のにはかの雪をはらからに

メーデーの列の後ゆく乳母車     『獨語』

蜩のいつときほどのゆとりかな

蒼空をふくらんでゆく稲雀

魞竹の背伸びしてをり夏つばめ

義仲寺は水あまりけり夏つばめ

立冬の訃報の雨となりしかな

 石塚友二先生逝去

春雪となる先生の叱咤かな

酔眼に坂のながさや星まつり

母の忌や庭に来てゐる黒揚羽

人影の坂をこぼるる風の盆

海あれば海の方なる恵方かな

眼の前が明るくなりし七日粥

三月や恋のキャデーの素顔なる

煙突の休んでをりし雪解富士

何気なく触れて框の福寿草

螢火を追ひかけて眼が合ひにけり

善徳寺むぎや祭の跡掃いて

鵙遠くなりたる朝の無口かな

葉桜やまだ働ける土不踏

霧流る滝のうしろも霧流る

獨語して大年の身をもてあます

金盞花師に叱られに来てをりぬ   『芋頭』

春の雪積もる話で別れけり

垂れるもの垂れ立春の切通し

頬刺の乾ききつたる眼かな

三鬼忌の神田で昼を食うべかり

草餅の手を引込めてしまひけり

螢火の抜け出して来る闇の中

年金と土用鰻を卓袱台に

濡れ縁にほつたらかしの籠枕

波郷師へ一辺倒の曝書かな

 小鹿原斗筲氏逝く

梅雨の葬そつとしてゐてやらうかな

人の家に憂さはらひをり衣被

おでん酒決めかねてゐる退職日

 勝彦先生俳人協会賞受賞

大寒のなかの鼎となりしかな

生涯を廻り道して芋頭

葉桜の風や会ふ人会へぬ人       『芋頭』以降

朝ざくら今生の地に佇ちをれば

さくら見るよりは延命地蔵かな

何気なく酌んで五月の米寿かな

木枯に追はれ追はれて年の嵩


 



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